日置櫻

有限会社 山根酒造場

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山根酒造場

幻の酒米『強力』復活

穂先までの長さが150cmにもなり、酒米の中では最も長桿品種とされるのが「強力」。大正時代に鳥取県を原産として生まれ、酒造家垂涎の的と呼ばれる米でしたが、そのあまりにも長い丈のため栽培は難しく、戦後の農業の変遷とともに「強力」は姿を消しました。

時代は流れ、醸造技術も飛躍的に進化し、吟醸酒が生まれました。蔵の古老から伝え聞いた強力なる幻の米。今の吟醸技術で仕込んだらどんな酒になるのか。一人の酒造家の好奇心は、やがて夢へと膨らみます。
それぞれの町にそれぞれの酒。ただ単に淡麗なだけでなく、香り高いだけでなく、飲む喜びと造る誇りに溢れ、生まれ育った風土を味わいの中にパノラマのように映し出す、そんな酒を造りたい。そんな願いを込め、昭和58年秋、私たちの強力復活への模索は始まりました。

昭和61年、ついに強力に出会います。鳥取大学農学部で原種保存されていた強力。それは僅か一握りにも満たない量であり、貴重な標本でもありました。

同大学の木下教授(現在強力をはぐくむ会代表幹事)に事情を話し、種籾として分けてもらうことを嘆願。木下教授はその熱意に共鳴くださり、同大学の試験圃場での育苗が始まりました。
一年後、すくすくと育った強力は、一俵ばかりの籾が獲れ、ネズミに食べられないよう天井に吊るし、私たちは春の訪れを待ちました。

そして今、日本海から吹き抜ける風に強力の稲穂がそよぎます。十数年前には一握りにも満たなかった種子が、篤農家の手によってすくすくと育ち、青谷町中郷谷一帯を黄金色に染めています。
その昔では考えられなかった高精白低温発酵により、強力は純米吟醸酒として現代に甦りました。異彩を放つ味わいは、自らを主張するかのように、圧倒的な存在感。温故知新の旋律の味わいを、杯の中でお確かめください。

強力米の特徴

強力は晩稲の大粒品種。祖蛋白も少なく割れにくい優良品種です。また、線状心白と呼ばれる澱粉質形状を持っています。心白には、他に球状心白と呼ばれるものもありますが、球状の場合、精米歩合の限界は50%程度なのに対し、線状心白の米は35%以下の高精白が可能です。この線状心白を持つ米は、強力・山田錦・雄町の三品種のみで、これらの米は純ジャポニカ系の米と考えられています。

強力は非常に硬い米で、精米に関してはかなりの時間を要します。蒸米の状態も他の品種より硬く、醪経過中でも解けにくい性質があります。当然粕歩合は高くなります。ある意味、酒化率の悪い米でもありますので、量産酒には向きません。

強力で造られた酒は、新酒上槽直後では膨らみは少なく、香りも沈んでいます。決して新酒鑑評会に出品するような酒ではありません。しかし一度熟成するとその味わいは豹変し、何ともいえないコクが現れます。典型的な秋あがりタイプの味吟醸です。

また特有の酸味が特徴で、お燗が大変美味しいのも強力の個性の一つです。